ペット可物件でも限度やオーナー意向はあります
ペット産業が成長していくにつれて、ペットを飼うもの・共に生活するものとして私たちのモラルも重要となってきている。
とりわけ、私たちのライフスタイルは多様化し、昭和の頃にスタンダードであった「サザエさん的家族」や「ちびまる子ちゃん的家族」は減少し、地域の田舎でもなかなか見られない。
核家族から2.5世帯家族などと呼ばれるものまで様々だ。
また、単身でも癒しを動物に求めることから各家族に1匹のペットという時代から、望めば一人に1匹ということまで可能な世の中になっている。
それに合わせてペットも一緒に住める住居がものすごい勢いで増えている。
新築時にペットのことを考えられてつくられているものや、リノベーション時にそのことを含めて改修した物件、築年数が古く、既存の入居者の反応を加味しながらペット可能物件へと変化していく建物など増加についても対応は様々だ。
自社にもいくつか取扱いも増えては来ていたが、それを直接仲介をすることはなかった。
そんなある時、一人の女性が来店した。
「すみません…」
「いらっしゃいませ。本日はお部屋探しですか?」
「えぇ、ペット可の物件を探していまして…」
「どこもないようなので、こちらではどうかと思いまして。」
「まぁ、どうぞ。」
「早速ですが、どういった物件がご希望なんですか?」
「ペット可能な借家なんです…」
「借家ですか、広さは?」
「私とペットだけなので、平屋で構いませんが、庭付きを希望してるんです。」
「平屋のペット可、物件ですか…無いときにはないですね。ちなみに庭付きでしたら、予算に応じて通常の借家でも構いませんか?」
「えぇ、構いません。」
「では、ペットは犬でしょうか、それとも猫でしょうか?」
「いえ、アヒルなんです… …」
「… … アヒルですか…」
「よくわからないんですが、室内で飼育されるんですよね。ペットとしてのものなんですか?」
「はい、ペットとしてでして、鳴き声などは犬ほどありませんが、日中に水浴びをさせないといけないんです。夜間はゲージの中に入れております。」
「近隣の皆様へはご迷惑をおかけしないようにしますので…」
「…はぁ、(だから庭付きなのか。子供用プールとかで水浴びをさせるんかな?)」
「オーナーに確認を取らないと、当社では判断ができませんので、今すぐのお返事はできませんが構いませんか。」
「はい、よろしくお願いします。」
「あと、念のために確認するのですが、1羽ですか?」
(アヒルって数え方「羽」でよかったかなぁ…)
「 … … … 2羽です …。」
「一応物件としましては、4DKタイプで庭付きの物件が5万でございます。ペット飼育可能で聞いておりますが、犬猫でして、初期費用も犬か猫かで変わる物件です。アヒルは初めてですのでオーナーの了承がないと何とも言えません。
確認はとりますが、もし構わないとなれば希望されますか?」
「大家さんさえよければ、私は構いません。」
「では、確認後ご連絡させていただきますので、本日のところはこれで構いませんか。」
「よろしくお願いいたします。」
インコや金魚も立派なペットと呼べることは理解しているが、アヒルは初めてであった。
会話の中で、現在までは知り合いの大家さんに庭付きの借家を格安で借りていたらしいが、その方が亡くなられ、引き継いだ方がその借家をつぶして土地を売るとのことだった。
最終的には当社オーナーでも了承は得られなかったためお断りした。
オーナーも鳴き声や臭いの件など、他の動物よりも迷惑をかけないだろうとは感じたが、前歴もなくどのような問題が発生するのか見当がつかないことがマイナスであったようだ。
「今日は今までも、これからも経験しないようなことを経験した気がする。」
「そうそうないですからねぇ。」
「今まで結構条件が厳しい人や、他で無いと言われた人を何とかしてきたことにマゾポイントを感じていたのに。」
「また、マニアックなこと言ってる。仕事は仕事ですよ。楽に決まればいいじゃないですか。」
「そうだけど、…」
そんなやり取りをしている時に電話が鳴った。
「お電話ありがとうございます。○○○○のリツリンです。」
「ネットを見てお電話しているんですが、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ありがとうございます。どちらの物件になりますか?」
「○○借家という4DK、ペット可の物件です。まだ空いておりますでしょうか?」
「(おっ、今日2件目)はい、空いてますよ。」
「あの…、実はペットを飼っているんですが、犬は大丈夫でしょうか。」
「はい、こちらの物件は犬・猫ともにオーナーの了承をいただいておりますので、大丈夫ですよ。内覧はされますか?」
「ありがとうございます。内見もぜひお願いしたいのですが…、その、犬が5匹いるのですが構いませんでしょうか?
あっ、でも全部小型犬です!しつけもしておりますので、鳴き声などは静かにできる子たちです。お部屋も傷まないようにしますが、万一の時にも十分に修繕費はお支払いします。」
「…はぁ、ちなみに小型犬ってダックスとかですか?」 (何、聞いてんだろ。)
「5匹はちょっと当社では判断できませんので、オーナーに確認を取らせていただきます。」
「オーナーの了承が取れましたら、ご連絡しますので内覧後、入居についてご判断ください。」
「犬種はダックスです。ご連絡お待ちしておりますのでよろしくお願いします。」
結果的にはこのお客様もオーナーの了承は得られなかった。
敷金云々より、賃貸で5匹は受け入れられないとのことであった。
分譲などでも、組合にもよるがだいたいの規約には犬猫1匹までとある。犬種やサイズも規定されていることも多いことから、通常の判断として2匹までは何となく、構わないかなと判断されやすいようにも思うが、ケースバイケースなのだろう。
マンションの場合は共同住宅としてのマナーの順守。借家の場合は町内会や周辺地域へ迷惑をかけないことなど、貸し手の方は、もめるリスクを徹底的に排除する。
『ペットは家族』
いろいろなライフスタイルに触れることができ、自分の想像を超える事象に出会えることは実に面白い。