管理者Xの検針

その家を、愛そう。

管理会社が変わってもすぐに入居率が変わるものではない

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所長が満面の笑みで事務所に飛び込んできた。

いつもは難しい顔をしながらパソコンの前に張り付き、開発の根回しもせず営業の粗探しばかりしている。

 

そういえば、今日は珍しく朝から出かけていた。

あまり気にしていなかったことと、事務所のホワイトボードに行先を書いていなかったので、どこへ行ったのかは分からない。

 

ただ、仕事がうまくいったのだろう。

笑顔でみんなを集めだした。

 

「はいはい、営業と管理部集まって!」

「どうしたんですか?」

 

「人気エリアの管理物件が増えるぞ!」

「えっ、新規受託ですか!」

「あぁ、管理変更だ。空室が増えて困っているらしい。築年数はそこそこ古いがRCだし、外壁の修繕も完了したみたいだからきれいだぞ。営業は一度物件を見に行くようにな。管理部は今後の担当決めと連絡事項の確認をしようか。」

※RC=鉄筋コンクリート

 

新規物件の募集にはネットへのアップや資料作成などが必要になるため、所長から聞いた住所へ新しく仲間となる物件を見に行ってみることにした。

 

住所で確認する限り、確かに人気のエリアに立地している。しかも、2LDKと3DKタイプのマンションだ。ファミリータイプはなかなか少ない。

道中でなぜ空室が増えているのかいろいろと考えてみた。

 

『取扱い不動産会社の周知不足か?』

『駐車場が確保できないとかか?』

『単純に家賃が適正でないだけか?』

 

まぁ、行けばわかるだろうと思っているうちに到着した。

 

「これか」

 

そういって物件を見上げた。外観は悪くない。だが、外壁修繕をしたといっていたが、あまりきれいではなかった。

正直、修繕をしたいと聞いていなければ気が付かないレベルだった。

 

『まぁ、普通だな』

 

人気エリアだが、これならすぐ決まるという雰囲気を持っている物件ではなかった。ただ、外観だけでは決まらない理由がわからないため、もしかすると室内がマニアックな間取なのではないかという不安が少しよぎった。

 

「4階の2号室が空いてるな」

 

エレベーターで4階まで上がってみる。エントランスや共用廊下、部屋までに特に気になる所はなかった。どちらかと言えばよく清掃が行き届いている。

『頼むよ~』

なぜか、普通でありますようにと願って室内に入った。

 

「… …普通」

 

若干拍子抜けだった。

まず、2LDKタイプは真ん中にLDKがあるタイプで、最近の賃貸には見ないタイプだが、使いやすいと感じる間取だ。地域がら二人でシェアするお客さんは少ないかもしれないが、カップルの利用や一人で広く使うにも利用できそうであった。

 

3DKタイプも2室が短いながら廊下を挟んで配置されており、ファミリータイプとして十分な広さがあった。

どの部屋も採光は十分で、明るく感じの良い部屋であった。

空室の理由を強いてあげるなら、美装を終えているもののクロスや建具などが古めかしく、洋室がフローリングではなく絨毯であることぐらいだった。

 

この時は、募集家賃の確認をして、適性を図るか室内のリフォームを適宜入れていけば入居が決まらないということはないだろうと思われた。

 

事務所に戻り、パソコンの前に張り付いている所長に声をかけた。

 

「所長、あの物件って家賃はいくらですか?」

「ん?2Lが75,000円!共益込みで。」

 

「えっ!?」 (相場よりも1万も高いよ。)

「あと、室内のリフォームはどうされるんですか?」

 

「ん?何も。」

 

「えっ!?」 (あの古臭さで。)

「家賃交渉はされたんですか?」

 

「あのマンションはね、前の不動産会社が管理しかしてなくて入居者の斡旋が弱かったのよ。で、困ってたオーナーが建設会社を通じてうちに声をかけてきたの。外壁にクラックが多くて見栄えが悪かったから、そこを直してくれるならうちで管理しますよって話をまとめたのよ。建設会社にも仕事が入るし、うちもあのエリアなら問題ないでしょ。ちなみに紹介料も入るから、結構な儲けなのよ。」

 

「ちなみに空室増えてて困ってる中で外壁修繕費出してもらったから、新たなリフォームはすぐには無理だろうね。ある程度埋まれば交渉するよ。家賃交渉はどうだろうね、あのエリアでいけないの?」

 

「所長、いくらなんでも1万も高ければ厳しいです。ましてや室内も古めかしいわけですから。外壁なんかは修繕してるなんて言われなければわからないぐらいでしたけど、あれオーナーはいくら払ってるんです?」

 

「工事費ね、1,000万。」

 

『えっ!!』

「管理部と相談しながら、頑張ります…」

 

この後、管理部・営業と何度もオーナーを説得し、1件契約ごとに室内のリフォームをお願いした。また家賃もバリューアップに応じた設定を何とか理解していただき、斡旋していくことができた。

 

 

 

管理会社変更などよくある話だが、空室が増えた時やオーナーチェンジの時など、金銭的なことが理由で起こることが多い。

 

オーナーは困って現状を何とか変えたいと、管理会社を変更するのだが、だいたいどこの管理会社も一緒だ。

 

この話のケースは特にひどいタイプだ。オーナーには当初1,000万のお金が出せたわけで、きちんと物件を周知させ、室内も適宜リフォームができていればこれほどのお金をかけずとも収支を向上させられたはずなのだ。

 

 

何かが変わる、変える時ほど慎重にならないといけない。